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Channel: 錦之助ざんまい
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『冷飯とおさんとちゃん』――錦之助の談話

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 「東映の友」(1965年5月号)に新作『冷飯とおさんとちゃん』について、錦之助の談話が載っている。5月号は4月5日発行なので、この談話はクランク中の、おそらく3月に取材されたものだと思う。この頃はまだ、東映内での錦之助の立場も揺らいでいなかったし、時代劇に対しても錦之助は希望を持って取り組んでいたようだ。話の内容から、この作品にかける錦之助の意気込みが感じられる。また、役者としての自信も伝わってくる。
 
 聞き手から、この作品で一番表現したいと考えている点は何かと訊かれ、錦之助はこう答えている。
「まったく違った三つの話なんですが、あるものから疎外された人間にスポットがあてられてるんです。第一話『ひやめし物語』では、権力社会、家族構成から疎外され、第二話『おさん』では特異な性癖をもつ女房から逃げ出す。ラストの『ちゃん』では企業という時代の流れから取り残された職人なんです。この三人の話を通じて、人間本来の素朴さ、誠実さ、人情の機微といったものが感じてもらえればと思っています」
 錦之助が「疎外」という言葉を遣っているところが面白い。確かに第一話と第三話の主人公は、社会から疎外された人間であった。第二話の主人公は、愛する妻からの疎外者だと言えないこともないが、女性不信に陥った男と言った方が適切だろう。



 山本周五郎の文学についてどう思うかという質問に対しては、こう答えている。
「周五郎先生独特のペーソスが、作品の隅々まで行き届いていて素晴らしいですね。『ちいさこべ』もそうでしたが、今度の場合もとても魅力を感じます。何だかジーンとしてきて、心の隅々まで洗い流されるような気がします」

 監督の田坂具隆は、錦之助が師と仰いで敬愛する存在だった。『親鸞』の撮影現場で田坂監督から指導を受け、錦之助は迷いが吹っ切れて、演技に集中できたという。『鮫』の時も同じだった。
「スラスラと役の中に入っていけるんですね。口ではうまく表現できませんが、先生には、うまく演技を引き出す魔力のようなものがあるんですね。それが無条件で先生を尊敬する最大の理由なんです」

 共演女優の新珠三千代について。
「第二話の女中おふさ役には、本を読んだ時から新珠さんのイメージがありました。新珠さんからはすごく女を感じるんですが、今度のおふさという女もそんなイメージがあるんです」
 新珠三千代は東宝の専属女優(1957年に日活から移籍)だったが、田坂監督が日活で撮った『乳母車』では、石原裕次郎の姉で宇野重吉の愛人役を好演していた。東映京都での田坂監督作品に再び出演がかない、錦之助との初共演が実現した。

 森光子について。
「森さんとは舞台(歌舞伎座)で御一緒したことがあるんですが、今度は貧乏人の子沢山というか、呑んだくれの亭主と四人と子供をかかえて苦労してもらうんです。そんな役がピッタリって云ったら森さんに悪いかな」



 森光子は1964年春に芸術座公演「越前竹人形」で中村賀津雄と共演したことが縁で、同年7月、歌舞伎座での三世・四世時蔵追善興行に招かれ、「ちりめん飛脚」で賀津雄と再び共演したが、錦之助との本格的共演はこの映画が初めて。錦之助より一回り(12歳)年上で、姉さん女房といった感じだった。


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