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Channel: 錦之助ざんまい
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成澤昌茂さんからうかがった話

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 これから書くことは、昨年の秋、脚本家の成澤昌茂さんにお会いして直接うかがった話である。成澤さんといえば、溝口健二監督のお弟子さんで、溝口作品では『噂の女』『楊貴妃』『新、平家物語』(この三作の脚本は依田義賢と共同執筆)そして溝口監督の遺作『赤線地帯』の脚本を書かれた方である。溝口監督の死後、成澤さんは、東映の錦之助主演作の脚本を八本、手がけている。『風と女と旅鴉』『美男城』『浪花の恋の物語』『親鸞』『続親鸞』『江戸っ子繁盛記』『宮本武蔵(第一部)』『関の弥太ッペ』がそれである。東映時代劇全盛時代の後期(昭和33年〜38年)にあって、成澤さんは、言うならば中村錦之助の座付作者であった。この頃、成澤さんは東映京都作品ではほとんど錦之助主演作の脚本だけを書いていた。
 
 そこでまず、異色作『風と女と旅鴉』の脚本を書いたきっかけを尋ねた。
「東映の岡田茂さんから頼まれましてね。東映のスター錦之助がお子様映画や娯楽映画ばかりに出ていてマンネリ化してきたので、岡田さんから傾向の違った芸術的な映画を一本書いてくれと言われました。タネを明かせば、アメリカの西部劇を参考にして書いたのがこの作品です。監督は最初、松田定次さんを予定していたのですが、加藤泰さんに代わって、ちょっと不満でした。」
 『風と女と旅鴉』は成澤さんが東映のために初めて脚本を書いた記念すべき作品で、以後、東映京都時代劇で錦之助主演のこれぞという大作は、成澤さんが脚本を担当することになる。それらの脚本は全部、主演の錦ちゃんをイメージして書いたそうだ。
「錦ちゃんが作品ごとにどんどん成長して、油が乗っていくのを見るのが楽しみでしたね。」
 『風と女と旅鴉』はなぜか松竹会長の大谷竹次郎が観て、脚本を気に入ってくれ、今度は大谷会長から松竹歌舞伎の脚本を依頼されるようになったそうだ。

 次は『浪花の恋の物語』の話。錦ちゃんの相手役に有馬稲子さんを連れてくるため松竹と交渉したのは、この映画の脚本を書いた成澤さん自身だったそうだ。
「当時有馬さんは松竹専属だったので、大谷さんと話し合って、私が松竹の芝居の脚本を書くかわりに有馬さんを東映のこの映画に出演させてもらったんですよ。」
 『浪花の恋の物語』は、これまた大谷会長が観て、監督の内田吐夢は歌舞伎が分かっていないと言ったそうだ。この映画の劇中劇で浄瑠璃の舞台シーンについてなのだが、最初に幕が開く時、幕を引く方向が逆だとのこと。つまり、舞台の上手(見物席から見て右の方)から下手(左の方)へ幕を引いていくのは、間違いで、下手から上手に引くのが本当だというのが大谷会長の指摘だった。成澤さんからこの話を聞いて、私も映画で舞台が出てくると幕を引く方向に気をつけるようになった。確か『藤十郎の恋』(山本嘉次郎監督、長谷川一夫、入江たか子主演)だったと思うが、京都の芝居小屋が出てきて、ここでは『浪花の恋の物語』と同じように、上手から下手に幕を引いていた。これも間違いなのか。

 成澤さんへのインタビューは3時間に及ぶもので、まだまだある。ただし、テープに録音しなかったので、インタビューが終ってすぐ印象に残った言葉をメモに取った。もちろん錦之助映画以外のことも多く、公表できない裏話もあるが、メモを見ながら、私が記憶していることも加えて、次回も書いてみたい。(つづく)




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