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Channel: 錦之助ざんまい
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脇坂淡路守

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 錦之助の脇坂淡路守を久しぶりに見たくなって、オールスター映画『赤穂浪士』を見た。この『赤穂浪士』、大佛次郎原作のものとして二度目の映画化であるが、前の『赤穂浪士』に比べると、出来が悪い。
まあ、錦之助の登場シーンだけ見れば良いと思って、あとの部分は適当に見た。
 錦之助の出番は前半に2場面、後半の初めに1場面ある。脇坂にしては、普通よりずっと多い。錦之助が当時東映のトップスターだった証しであろう。

 最初は、脇坂が浅野内匠頭の江戸屋敷を訪ねて、内匠頭を励ます場面。錦之助が橋蔵と同じ場面で台詞(せりふ)を交わして共演するのは、確か数年ぶりだったと思う。『七つの誓い』以来であろう。
 錦之助と橋蔵が対座するところから始まるが、ここは錦之助が一方的に話し、橋蔵は聞き役にすぎない。むしろ、北の方(内匠頭の妻)の大川恵子と錦之助のやり取りが楽しい。病気で床にいた北の方が着飾って出て来て、淡路守様の声が大きくて、寝てもいられないと言うと、錦之助は、「とんでもない言いがかりをつけられてしまった」と言って、高笑いする。この豪快な笑い方がいい。錦之助の持論、笑いも台詞である。



 そのあと、錦之助は食事に魚を出された殿様の話をするのだが、これは落語のネタ。三遊亭金馬(出っ歯の三代目)がこの話を「目黒のサンマ」のまくらに使っているが、昔からある有名な小噺らしい。
 殿様がおかしら付きの魚に箸を付け、一口食べたあと、代わりを持てと言う。あいにく同じ魚がなく、困った家臣が、庭に咲いた桜の方に殿様の視線を向けさせている間に、お膳の魚をひっくり返す。また一口食べた殿様が、さらに代わりを持てと言う。困り果てた家臣を見て、殿様が「もう一度、庭の桜を見ようか?」
 錦之助は、大の落語好きで、座興で持ちネタを一席演じることも度々あったと聞く。淡路守が殿様と魚の話をする部分は、脚本にあったのだろうか。この場面の演出は、私の推測では、松田定次ではなく、共同監督のマキノ雅弘だったと思う。クレジット・タイトルにマキノの名前はないが、この映画の半分近くはマキノが撮ったそうだ。してみると、この場面はマキノと錦之助の二人で即興的に作り変えた可能性が高い。
 それはともかく、そのあと赤穂から鯛の浜焼きが届いたという知らせがあり、立ち上がった内匠頭が襖の向こうに並んだ鯛の前で、釣った家来の名札を見ながら感動することになるのだが、この時の橋蔵の一人芝居が下手で、ここを見るといつもげんなりしてしまう。
 最後に大川恵子がどの鯛が食べたいかと錦之助に訊かれて、お殿様が桜を見ている間に出された鯛と言って、また錦之助が高笑い。「すっかり当てられてしまった」と言う。
 帰り際、玄関の前で駕籠に乗った脇坂は、見送りに控えていた片岡源吾衛門(山形勲)に吉良上野介に送った品を問いただし、家来の本分を説く。
 
 そして、いよいよ殿中松の廊下の場面。
 やはり、脇坂淡路守と言えば、見せ場は、内匠頭が刃傷に及んだ直後、避難する吉良の前に現れて、すれ違いざま、紋付を血で汚したと怒って、吉良の頭を扇子(中啓)で打ちつけるところだ。ここは、松の廊下の刃傷の場面の締めとして欠かせぬ箇所で、観客は、憎き吉良に対するこの脇坂の行為を見て、留飲を下げるわけだ。したがって、脇坂の役は小物俳優では務まらない。威厳と風格がなければならない。錦之助の脇坂は、戦後の「忠臣蔵」映画ではおそらく一番若かったと思うが、28歳にしてこの威厳と風格、さすがである。
「おのれ~、この脇坂の定紋を不浄の血でけがすとは!! 慮外者めッ」
 と言うやいなや、吉良上野介の頭と胸を打ち付けた時の迫力がすごい。月形龍之介の上野介も「平に~」と許しを請うて、たじたじだった。

 後半は、赤穂城の明け渡しの場面で、錦之助の脇坂が白馬に乗って、颯爽と現れるが、馬上の姿が実に様になっている。
 そして、城内の内匠頭の居室で、千恵蔵の大石と対面する場面。千恵蔵が受けの芝居に徹し、錦之助の演技を引き立てる。それに応え、錦之助が思う存分、芝居をしていた。

*下にアップした役者絵、錦之助の特徴をよくつかんでいる。ただし、萬屋錦之介とあるのはいただけない。





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