先週の金曜日、渋谷の桜ヶ丘の試写室で『極道めし』という新作映画を観た。観る前の予備知識は、ほぼゼロ。映画評論家の渡部保子さんのお供をして、飛び入りで会場へ入れてもらった。50名ほどしか入らない小さな試写室で、集った人は30名ほど。これで試写会といえるのだろうか。試写会というのは、新聞や雑誌の映画担当者や映画評論家などを招いて、新作を見せ、記事を書いて宣伝してもらうのが目的だと思うが、これではあまりにも寂しい。『極道めし』という映画も喜劇という触れ込みだったが、喜劇にあらず。笑える場面がほとんどない。面白かったのはオッパイプリンが出て来る真ん中の10分くらい。これでは、試写会を開いても逆効果であろう。面白い映画や感動する名作ならば、試写会を開く意味もあり、評判が波紋のように広がって、公開時までの宣伝効果も大きいと思うが、試写会で観た映画がつまらなければ、かえって前評判の悪さが観客動員の低下につながってしまうのではあるまいか。
『極道めし』というこの映画、9月23日から一般公開ということだが、すでに試写を見せ、ホームページも作って予告編も流している。ずいぶん手回しが早い。試写から一般公開まで、3ヶ月も期間がある。以前ならこんなに間(ま)があくことはなかったと思うが、最近の新作映画はみなそうらしい。映画の完成から6ヶ月くらい経ってやっと一般公開されるのが普通なのだそうだ。昔と違って、新作映画の封切館が少ないため、順番待ちなのだろう。
映画を観た後、試写会に誘ってくださった渡部保子さんに付き合ってもらい、東急プラザ内の紀伊国屋書店へ行き「お宝村」のポップを担当者に渡して、書店営業は終了。そのあとは保子さんとデート。渋谷駅の反対側の宮益坂まで腕を組んで歩いたが、それは79歳の女性の足元を気遣ってのこと。彼女の行きつけの釜飯屋でビールを飲み小料理を食べながら、2時間ほどいろいろな話をした。
渡部保子さんは、昭和28年に映画世界社に入り、月刊誌「映画ファン」の編集部員として多くの記事を書いて活躍された方である。当時としては珍しい美人女性編集者で、錦ちゃんを始め映画全盛期のスター達に直接取材し、彼らに好かれていたので、裏話もなにかと御存知。スター達との交流については保子さんの著書「『映画ファン』スタアの時代」に詳しい。第一章には、錦ちゃん、ひばりちゃん、裕ちゃん、橋蔵さんの順で、彼らとの秘話が語られている。
保子さんは、昭和33年に日大芸術学部の同窓生で東映動画のキャメラマンになった杉山健児氏(8年前に逝去)と結婚し、お子さんが生れてからしばらくは主婦業に専念していた。が、映画への熱き思いは止みがたく、昭和50年代半ばから再び仕事に復帰し、婦人誌の編集者となり、さらに映画評論の分野で健筆をふるうようになった。また、「日本映画批評家大賞」(水野晴郎氏が創設)の選考委員となり、今年からは白井佳夫氏の後を継いで同賞の選考委員長を務めている。
私が渡部保子さんと知り合ったのは、5年前の3月、錦友会で催した上映会の後のパーティだった。その後、私が編集制作していた会報に、「映画ファン」のイラストレーターだった直木久蓉氏が描いた錦ちゃんの似顔絵を使わせてもらうため、保子さんに時々連絡を取っていた。そして、一昨年の「錦之助映画祭り」の頃から、親しくお付き合いするようになった。上映会に何度も足を運んでくださり、私が編集した「にんじんくらぶの三大女優」に文章を寄せていただき、また、写真家の早田雄二氏が撮った「映画ファン」の表紙写真を使用できるよう仲介してくださったり、保子さんにはいろいろな協力を仰いでいる。
昨年の第19回日本映画批評家大賞では、丘さとみさんがゴールデングローリー賞を受賞したが、その際、東京青山の会場に丘さんを引っ張り出すことに私が一役買わせてもらった。日本映画批評家大賞は、作品賞ほか監督賞、男優賞、女優賞など各種の賞があるが、それらの賞をもらうには当人が授賞式に出席することが条件なのだ。昨年の受賞者は錚々たる面々で、萩原健一、寺尾聡、石橋蓮司、ロミ・山田、薬師丸ひろ子、倍賞美津子、赤木春恵ほか、そこに丘さんが加わり、実に盛大であった。私は、自ら買って出て、この日だけ丘さんの付き人をやらせてもらった。丘さんが表彰された時のプレゼンテーターは、もちろん、丘さんとは昔馴染みの渡部保子さんであった。丘さんも、こうした晴れ舞台は久しぶりだったので、大変喜んでいらした。パーティの時、人見知りする丘さんが、寺尾聡さんのファンだと言うので、私が寺尾さんに頼んで(寺尾さんとは私も初対面だった)、丘さんとのツーショット写真を撮影した。
今年の第20回日本批評家大賞は、東日本大震災の影響もあり、山梨県甲斐市で5月28日に開催された。今回は、渡部保子さんが選考委員長でもあり、また私が親しくしている脚本家の石森史郎さんがエメラルド賞を受賞されるというので、私もお祝いに駆けつける予定だった。が、新刊書「お宝村」の制作が追い込みで、無理を重ねたため、体調を崩してしまい、参加できなかった。本当に残念だった。
話は戻るが、渋谷の釜飯屋で、保子さんから、今回の日本映画批評家大賞の授賞式の話をいろいろ伺った。それと、錦ちゃんの恋人の話。祇園の舞妓さんのこと、ひばりちゃんとのことなど。錦ちゃんの周りには、他にもいろいろな女性がいたとのことだが、年代によってその移り変わりがあり、有馬さんとアツアツになってからは過去の女性はみんな整理したようである。錦ちゃんもすみに置けない。